世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる

読みを聞いてみましょう。上の句のあとに、下の句が続きます。
決まり字
よのなかよ
決まり字は、その一首だと聞き分けられるようになる、上の句のはじめの何文字かのことです。この歌なら、読み手が「よのなかよ」と読んだところで、取る札が決まります。
競技かるたでは、同じ音ではじまる札が何枚あるかで分類します。この歌は「四枚札」〈はやよか〉の仲間です。
現代語訳
世の中よ。悲しみから逃れる道は、どこにもないのですね。思いつめて分け入った山の奥でも、鹿が、妻を恋うるように鳴いている——世を捨てて来たはずの深い山にまで、悲しみの声は届いています。逃れ場のなさを、鹿のひと声に聞きとった一首です。
歌人の物語
のちに勅撰集の撰者をつとめ、歌の道の大きな師と仰がれた人です。この一首は、世を捨てようかと思い悩んだ若い日の作と伝わります。
この歌とは、道のりの「四枚札」のあたりで出会います。
うたふだをはじめる
一首ずつ歌と出会いながら、決まり字を手がかりに札を取る力を、短いお稽古で育てていきます。