住の江の 岸による波 よるさへや夢のかよひ路 人目よくらむ

読みを聞いてみましょう。上の句のあとに、下の句が続きます。
決まり字
す
決まり字は、その一首だと聞き分けられるようになる、上の句のはじめの何文字かのことです。この歌なら、読み手が「す」と読んだところで、取る札が決まります。
競技かるたでは、同じ音ではじまる札が何枚あるかで分類します。この歌は「一字決まり」〈むすめふさほせ〉の仲間です。
現代語訳
住の江の岸に、波が寄せては返しています。その「よる」という音に、夜がそっと重なります。昼は人目をはばかるとしても、夜の、それも夢の通い路でさえ、あなたは誰かの目を気にしているのでしょうか。夢の中でくらい、遠慮なく逢いにきてくれてもいいのに——そんな、やさしい恨みの恋の歌です。
歌人の物語
詠んだのは、平安前期の歌人で、三十六歌仙のひとりに数えられる人です。波から夜へ、夜から夢へと言葉を手繰り寄せながら、逢えないせつなさを、そっと忍ばせています。
この歌とは、道のりの「一字決まり」のあたりで出会います。
うたふだをはじめる
一首ずつ歌と出会いながら、決まり字を手がかりに札を取る力を、短いお稽古で育てていきます。